「バナナフィッシュにうってつけの日」

 この作品は、サリンジャーの短編集「ナイン・ストーリーズ」の最初の話だ。 

 最近、あるクラスメイトに「ナイン・ストーリーズ」をおすすめした。 彼女は「人間失格」だったり、川端康成の「眠れる美女」だったり、結構本を読むたちだ。 でも、この「バナナフィッシュにうってつけの日」は、読み下すのに時間がかかりそう、と言われた。 僕も、一読目、全然腑に落ちなかった。 気づいたらシーモアが銃の引き金を引いていた。

 というわけで、今回は僕なりの「バナナフィッシュにうってつけの日」の感想・解釈を書いていきたいと思う。 あくまでこれは僕の解釈なので、決してこれが正しいなどと思うことのないようにお願いしたい。

 さて、この作品は、どうしてこう「わからない」のか。 いくつか理由はあるだろうが、もっとも大きな要因は、「バナナフィッシュ」が何かがわからないということだ。 作中で、シーモアは、バナナフィッシュについてこう説明している。

 「あのね、バナナがどっさり入ってる穴の中に泳いで入って行くんだ。 入るときにはごく普通の形をした魚なんだよ。 ところが、いったん穴の中に入ると、豚みたいに行儀が悪くなる。 ぼくの知ってるバナナフィッシュにはね、バナナ穴の中に入って、バナナを七十八本も平らげた奴がいる」

  勿論、バナナフィッシュとは実在の魚ではない。 暗喩だ。 僕は、バナナフィッシュを、兵士だと解釈した。 兵士は、普段はなんてことのないただの一般人だが、戦争が始まった途端、合法的な人殺しへと変化する。 シーモアは、あたかも、七十八本もバナナを平らげたバナナフィッシュを直接見たことがあるかのような言い方をしている。 直接見たことがあるのだ。 七十八人もの敵を撃ち殺す仲間をその目で見ている(この作品が発表されたのは1948年1月31日だから、この場合、シーモアが従軍していた戦争は、第二次世界大戦ノルマンディ上陸作戦だろう)。

 そして、バナナを食べ過ぎたバナナフィッシュは、バナナ熱にかかって死んでしまう。 従軍を終えた兵士が、精神衰弱にかかって自殺してしまうように。 そして、その一人がシーモアだった。

 そういう観点でこの作品を捉えてみると、様々なことが見えてくる。 シーモアの妻や、シビルの母親、そしてたくさんの一般人は、ついさっきまで行われていたはずの戦争がなかったかのようにマニキュアを塗り、車を直し、友達とお酒なんか飲みあっている。 何千万という人間が死んだ事実をどこかに置いてきて、日々の生活に身をやつしている。 そしてむしろ、戦争の記憶に未だ心を囚われているシーモアを狂人扱いまでする。 

「もっと鏡見て」 

  シーモア・グラース。 僕には、この言葉が、本来向き合うべき現実と向き合っていないたくさんの大人たちに向けての批判のように思えてならない。 勿論、シビルがそういった事情を意図して言ったというわけではなく(だったら天才少女だぜ!)、これは、サリンジャーからのメタフィクション的なメッセージだということだが(つまり、作中の大人たちと、実際にこの小説を手にとって読む現実の大人たちを重ね合わせている)。

 その中で、シーモアはひたすら孤独だ。 ラスト近くのエレベーターのシーン、やたらと戦争の傷を気にする様子からも、彼と他人との温度差が感じられる。 そんな彼が唯一気を許しているのが、純粋の象徴であるシビルというわけだ。 「ちゃんと鏡を見ている」シビル、つまり子供達の姿に、彼は惹かれるものがあったのだろう。 実際、小さな子供を目の前にしてみると、その全くの無垢さに、微笑ましく思うことがある。 同時に哀しくもなるが。

 さて、シーモアはどうして自殺したのか? という問いに際して、前提においておきたいことがある。 それは、シーモアは、いずれにせよ、いつか自らの命を絶っていただろうということだ。 ただ、この日が、今日がうってつけの日だったから、今日死んだだけで、シビルの言動がどうとか、妻の行いがどうとか(どうやら、シーモアたちが泊まっていた507号室の507というのを取り出して、これは6がない、つまりsixless→sexlessだ! などという解釈もあるらしい。 僕は絶対違うと思う)、そんなことは問題ではなかったのだ。 ただ、あえていうなら、シビルが、「バナナフィッシュが見えた」と言ったあの時、彼は、もう一度鏡を見直すことになったんじゃないだろうか。 シビルが見たという六本のバナナをくわえたバナナフィッシュ──これもまた偶然だろうが──それは、シーモアの殺した敵の数と全く一致していたんじゃないか、と推測する。 その、なんて事のない偶然で、彼は今日を命日に選んだのかもしれない。

 えらく長くなったし、随分と文章も混乱したけど、とりあえず勉強をしないといけないのでこれくらいで終わろうと思う。 また気づいたことがあったら追記する。 みんな、サリンジャー読んでね。